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その腕に抱かれて…
 夜の樹海は美しい。ここが危険な場所でなければ毎日でも足を運ぶだろう。

 しかし、実際の樹海は危険そのものだ。特に夜ともなれば…。

 視界は限られ、闇の中での生活に慣れた魔物たちが蠢く。油断すれば熟練の冒険者でも命を落とすことになる。

 そんな樹海の地下一階を三人の冒険者が歩いていた。

 赤毛のソードマンの生年に、金髪のパラディンの少年。それに、オレンジブラウンの髪のメディックの少女。

「スター、気をつけるんだぞ?」

「わかってるよぉ。アッシュこそ前に出てるんだから気をつけてよね」

 スターと呼ばれたメディックの少女がむぅっとふくれっ面になる。アッシュと呼ばれた青年は小さく苦笑して地図を眺める。

「この先か…」

 パラディンが目を輝かせる。アッシュは呆れて言った。

「フローリアン。俺たちはまだ強くないんだ。油断してて大変なことになっても知らないぞ?」

「わかってるよ。だからアッシュはわざわざついて来てくれるんでしょ?」

 フローリアンが負けじと言い返す。スターは言った。

「大丈夫だよ。すぐ行って戻ってくるだけだもん。」

「これがうまくいったらみんな喜んでくれるかな?」

 フローリアンが楽しそうに呟く。アッシュは目的のものを目の前に足を止めた。

 そこは、湧き水だった。どんな原理かはわからないが、夜になると精神を癒し、回復してくれる不思議な水に変わる。

 これが、彼らが今ここにいる理由だ。



 話はその日の夕方のこと…。

「あの湧き水って…持って帰っても効果あるのかなぁ?」

 ぽつりと、呟いたスターの一言。アッシュは眉を寄せただけだったがフローリアンはその話に興味を示したようだった。

「夜のうちに汲めばどうにかなるかもな」

「じゃぁさ…行って見ない?」

 二人が声を押し殺して話し続ける。しかし、それはすぐ近くにいたギルドマスターのアッシュに聞こえていたわけで…。

「お前ら、何をたくらんでるんだ?」

 意地悪に声をかけてやるとフローリアンとスターの体がびくんと跳ねる。アッシュは笑いそうになるのを必死にこらえて言った。

「水を汲みに行くならみんなで行こう。二人じゃ魔物にあってもどうしようもないだろう?」

 まだB3Fに降り立ったばかりだったからアッシュが心配するのも無理はない。しかし、スターは首を横に振って言った。

「だめなの!みんなには秘密。内緒にしてびっくりさせたいの」

「うん、そっちのほうがきっと喜んでくれるだろうし」

「俺は秘密にしてたことを怒られると思うぞ?」

 アッシュの言葉を聞いてスターは一瞬躊躇したが言った。

「それでもいいよ」

「…わかった…。おれもついて行くから」



 そして今に至っていた。

 アッシュは苦笑する。目の前で水筒に水を汲む二人の無邪気な顔を見ながら。

「平和だな…」

 平和自体は良いことなのだが、この森の中で平和という言葉を使うのはどうかと思った。それでもこの二人の、今楽しそうに笑いながら水を汲む姿を見ているとこの森自体の危険を感じることはできなかった。

 森全体が優しくて、自分たちにとってのあの暖かな家を育ての親を思い出す。

 すべてのものの父、ないし母の腕に抱かれるような感覚。

 アッシュは自分の掌を見る。すると、新緑の葉が一枚はらりと掌の上に落ちた。

「汲み終わったよ!」

 スターがそう声をかける。アッシュは「じゃぁ、帰るぞ」と糸を取り出す。すると、フローリアンは言った。

「歩いて帰ろう。近いし、糸もったいないよ?」

「…そうだな」

 いつもなら少しは反対するだろう。しかし、今日はそんな気分にはならなかった。



 もしも、この木々が人々を育み愛し育ててくれる親なら…今ここで試練を与えるようなことはしないだろうと…そう思えたから。



「帰ろう」

 今日の冒険は終わりでも明日、また冒険は続く…。



 余談:水は朝になると効果がなくなっていた。しかも、夜に抜け出したことがほかのメンバーにばれていて非常に怒られた。






 「名も無き海の境界線」音刃 雫様より頂きました!ありがとうございますっ!
 ほのぼの!ほのぼのですよ奥さん!(意味不明)いつもこのサイトに枯渇してるあったかい雰囲気のSSですよ!しかもわざわざうちの子達ですよ!いえ私がおねだりしちゃったのですが!
 もーこいつら可愛いー!本当にうちの子達ですかっ!音刃さん本当にありがとうございました!
update : 2007.05.04
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